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ブラックニッカ日々 2017-05-12

7時に大阪着。
東京より少し寒く感じる。
朝だからか。
天気が良く、疲れたが気分は悪くない。
ふと歩いた先に吉野家があり、
ん、牛鮭定食、と一瞬味を想像したら吸い込まれた。

「牛鮭定食のご飯少な目で」と注文したら「牛鮭定食ご飯大盛りのお客様ー!」と運ばれてきたが、
無事少なくしてもらうことができ、ちょうどよく食べた。美味い。

帰宅し、午前中にやっとかなきゃならない仕事だけして少し寝る。
京都の出町柳でやってるめりんぬさんの個展に行きたいと思っていて、
タイミング的に今日しかないなと思って行くことにする。
京橋で割引チケット買って京阪の特急で。
一瞬しか目を開けてられず着くまで眠る。

momragっていうスペースでやってるというのだが、
本人がおらず、ポストカードがちょこんと売られているだけで、
これだけっていうことは無いんだろうけど、間が悪かったなと思ってすぐ外へ出る。
せっかく出町柳まで来たのでトランスポップギャラリーまで歩いてみたら逆柱いみり展をやっていて、
それを見る。改造車みたいなギラついた絵でちょっと面白かった。

鴨川沿い歩こうと思いつつ、めりんぬさんにLINEして見たら
「今開けました!」とのこと。2階が展示スペースだったようだ。
まだ近くにいたので見せてもらう。
急な階段を上ると銀紙でギンギラになった部屋にめりんぬさんのコラージュが置かれたり、
タコかぶってる写真が貼ってあったりする。
とにかく色が過剰に迫ってくる感じをしばし堪能。

下に降りてめりんぬさんと少し話す。
会期中はほぼ在廊しているというので、あの2階の部屋にいるんですか?と聞くと、
あそこにずっといると気が狂いそうになるんで、下にいます、と言っていた。
めりんぬさんでもあの部屋は気が狂いそうになるんだなと思った。

ギッラギラの色彩の化け物みたいなのもかっこいいし、
水墨画とか、つげ義春の絵みたいな何も色が無いようなのも好きだし、
さらにはその間の“ちょうどいいやつ”も好きである。例えば永井博みたいな。
どんどんどんどんどれもこれも良く思えて、少し前は、
そんななんでも分かる!みたいに言ってるのは実は全然分かってないっていうことなのでは?とか思ってたけど、
よく考えたら、別にそんなの人それぞれでどっちでもいい。
なんとなく自分の場合はこの世界に、できるだけ分かるためにやってきたのだろう。
それにしては分かりやすいものしか分からない。

鴨川沿いを小川さやか「都市を生き抜くための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌」を読みながら歩く。
返却期限が過ぎているのだ。

ここ最近読んだ本の中でも特に面白いように感じた。
何日か前の日記にも書いたが、古着をストリートで売る商人・マチンガたちが、
独特の倫理観を持っていて、ズルしても裏切っても平然と許し合って生きているというその感じ。
とにかくグッと来た部分にふせんを貼りまくったのでできる限り抜き書きしたい。

ちなみに著者の小川さやかは、マチンガたちに混ざって2年間ぐらい実際に古着の行商をして、
現地でも「白人(日本人はそう呼ばれる)の女のマチンガがいる!」と有名になっていたそうだ。

・2005年のある晩、ふとした会話中にわたしは、調査助手のブクワとロバート、露天商で友人のニャワヤから「サヤカ、君はいつになったら本(博士論文)を出すんだ」と尋ねられた。(中略)この日、わたしは少々落ち込み気味だったので、「博士論文を書くのがいかにたいへんか」について切々と語った。そのなかでわたしは「書くときにはいつも不安だ。あなたたちが書いてほしくないことを書いてしまうかもしれないし、結局は、私の解釈でしかない」と話した。(中略)翌日、古着市場に行くと、マチンガ数人から突然「大事なことだから、二万シリングをくれ」と大金を要求された。(中略)その翌日、わたしは突然、重要な会議があると呼び出された。馴染みのバーに着くと、17人のマチンガが集まっていた。そしてニャワヤから「いまから<マチンガの商売とは何か>をひとつに決めるための話しあいをする」と告げられた。ブクワとロバートは、他の露天商や行商人に「サヤカが何やらナーバスになって、マチンガの商売がわからないと言いはじめた」と相談し、他のメンバーは、「たたで飲めるなら、行く」と集まったという。(中略)意見交換がされたが、二万シリング(さらにその場で万札を数枚追加した)の酒に酔っぱらったマチンガは、けんかをはじめた。結局マチンガの敵もよくわからないまま、会議はたんなる飲み会になって終わった。(中略)「もう、余計にわからなくなったじゃない」と不平を言った。するとブクワは「そうなんだ。やっと気づいたか。じつはオレたちもよくわからないんだ。だから心配するな」と言って私の肩を叩いた。

マチンガの多くは親族や同郷の者と取引するよりもそういうつながりのない人間と取引するのを好む。それを踏まえてのメモ。

・オレたちは親しい人間ほど嫉妬深いと考えている。それはこういうことだ。誰でも最初は遠慮深い態度でやってくる。誰でも最初は片手を出すことからはじめる。しかし片手を出して与えられることに慣れると、つぎは両手を出すようになる。両手を出して与えられることに慣れると、つぎには帽子をひっくり返して差し出す。そしてついに「そんなに与えるものはない」というときになって、約束が違うと怒り出したり、裏切られたとショックを受けたりして、二度と現れなくなるのが親しい人間というものだ。ここで平然とふたたび片手を出すことからやり直すことができるのが、商売仲間だ。

・都市で生きていくために大事なことは関係をつくることだ。2000シリング貸してくれるひとりの友人ではなくて、ちょっと説得したら200シリングをカンパしてくれるたくさんの仲間を。

マチンガたちが大事にしてるのが「ウジャンジャ」という感覚。俺の解釈では「うまくやる」「切り抜ける」という感じ。ウジャンジャを使いこなせるやつのことを「ムジャンジャ」と言う。それを踏まえてのメモ。長くなる。

・マラ州の農村で暮らしていたジュリアス(当時14歳)は、経済的な困難を理由に母方のオバを頼ってムワンザ市へと出稼ぎにきた。ジュリアスのオバの息子は、居住区の隣人である古着露店商ニャワヤ(30歳男性)にジュリアスを店番や使い走りとして預かって欲しいと頼んだ。(中略)ところが、ニャワヤはしばらくしてジュリアスが役に立たないことに気づいた。(中略)ジュリアスは数字を書くことができず、簡単な足し算もできなかった。(中略)ジュリアスは客とのコミュニケーションが苦手だった。ジュリアスは客に「えっ、聞こえないわ。いくらなの?」とやや強い調子で服の値段を聞き直されるだけでパニックになり、店番をほうって逃げ出した。(中略)わたしは彼の不運な境遇を聞かされていたので、しばしば、「男の子なのだから、泣いてばかりじゃだめじゃない」などとお節介を焼いた。しかし、そのたびにわたしは、他の露店商から「ほっとけ、ジュリアスはまだポーズを模索している最中だ。お前が彼のポーズを修正してしまったら、ジュリアスのためにならない」「都市はすでに満員だ。自力で生きていく術を見つけられないようなやつは、さっさと田舎に帰ればいいんだ」などと諫められた。ある日、露店商のアブドゥル(31歳男性)は、ボスであるニャワヤの不在中にジュリアスがなんとか自力で販売した服の代金をニャワヤに手渡すのを目撃した。アブドゥルは、ニャワヤが代金を受け取って立ち去ると、ジュリアスを呼び出して次のように言った。「お前って本当にバカだな。いいか、1000シリング以上で販売しろと言われて1500シリングで売れたのなら、ニャワヤには1300シリングでしか売れなかったと言え。それで200シリングは黙ってポケットに入れるんだ。カネが欲しかったら頭を使え」 ジュリアスはアブドゥルに言われた通り実践しようと、ニャワヤにブラウスの値段を実際に販売できた額よりも安く報告した。しかしジュリアスの嘘はあっさりとニャワヤに見破られてしまった。こっぴどく叱られたジュリアスは「アブドゥルが嘘をつけって言うから僕はそのとおりにしたんだ。(中略)大嫌いだ」と泣け叫びながらわたしの露店に駆けこんできた。ところがその日の夕方、ジュリアスに騙されたニャワヤは上機嫌でわたしを飲みに誘い、「なあ、聞いてくれよ、サヤカ。ジュリがやっとムジャンジャになってきたんだぜ」と本当に嬉しそうにジュリアスが売り上げをごまかそうとしたことについて話した。(中略)ニャワヤは「じつはアブドゥルからジュリアスが嘘をつくことを事前に知らされていた」と語り、にやにや笑った。

・マチンガは、ウジャンジャな戦術を「詐欺」とも区別している。たとえば、バレンタインデーの前には「愛の色」として赤色の衣類の需要が高まり、希少になる。こうした状況を考慮して、「以前から赤色の衣類をこつこつ貯めて放出した」商人はスペシャリストと評価され、「白シャツを赤く染めて販売した」「問題のある赤いブラウスを安く仕入れてシールを貼って販売した」商人はムジャンジャと評価される。しかし、「ブラウスを届けると嘘をつき、計画的に客から前金を集めて逃げた」商人は「詐欺師」だとされる。

ちなみに上のケースでは先見の明のあるスペシャリスト商人よりもウジャンジャで切り抜ける商人の方が尊敬を得られるようである。そこがまた面白い。

・オレたちには、親友はひとりもいない。親友はやばいんだ。(中略)そうじゃなくて、仲間って感じで認め合うんだ。そうやって、赦しあうことがオレたちのやり方なんだ。そのバランスがわかるようになるってことが、ムジャンジャになったってことさ。

マチンガは、卸売商と口約束の取引をしている。正式に雇用し、雇用されるような関係になることを嫌っている。契約してしまうと、主従の関係が生まれ、関係が固定してしまう。それを嫌がっている。

・「口約束」だからうまくやっていけるのだ。確かに契約書を交わせば、彼らはわたしから商品を買い続けるかもしれない。でもそれはお互いさまだ。「口約束」なら商品がなくなれば、もうこれで終わりだと言えばすむし、商売がうまくいかないときに値下げはできないと言えば、納得してもらえる。給与を上げろとか、休みをくれなどと要求されないし、決まった給与が払えなくても文句は言われない。

今まで抜き書きしてきた部分だけだと、マチンガのずる賢さと、ドライさみたいなところが目立つかもしれないが、マチンガは、あまり金のない客には、仕入れ値より安い価格で商品を平気で売ってしまったりする。また、自分たちの仕入れ元である卸売商が貧窮していると、ボロい服のタグをインチキに付け替えたりして無理矢理売ってその金を卸売商に回したりもする。

・「マチンガ」は、そのようなウジャンジャの発動に従うことで、「全体がうまくいっている」と捉えている

・(アルバート・ハーシュマンが提唱したポシビリズムについて)「不確実性・未決定性のなかに可能性を見出し、不確実な世界における人間の主体的活動の方途を模索しようとする」ことであり、「複雑な事態の予見可能性を求め過ぎることが権威主義の温床であり、不確実性を受容していくことが多様性の持続に向け、全体主義的な、あるいは権威主義的な手法に代わりうる政策・戦略を提示」できるとする

・マチンガとともに商売をしていると、わたしはつねにどこまでみずからの行為、感情、生をその場の人間相互のかかわりあいにゆだねることができるのかを試されているような感覚にとらわれた。あってないような値段、住所も本名もよく知らない相手とのたんなる口約束による掛け売り、「ダメでもともと」の頻繁なたかり、明日いなくなるかもしれない仲間、まったくあてにならない警察……。このような不透明な世界で、何を買うにも交渉しなければならないこと。裏切られても次の可能性に賭け、結局また同じことを繰り返すしかないこと。これらは、定価販売に慣れ、契約書に慣れ、義務や権利を主張するのに慣れ、安定した関係を維持していくことを理想としてきたわたしにとっては、とてつもなく面倒に思えることも多かった。しかし一方で、私的な困難の訴えに応じて値段が変わること、担保や契約書がなくても売ってもらえること、自分より経済力のある商人と対等に渡りあえること、仕事や人間関係をいつでもやめたり再開したりできること、マチンガが生き生きと商売をしていること、そこには、経済が人間の相互依存のうちに成立していることを覆い隠し、人間相互のかかわりを客体化・制度化していく過程で、みないふりができるようになった豊かさがあった。


書き写すの疲れた。
マチンガは、得ばかりしたいわけじゃない。警察(マチンガは警察と敵対することもあるし、賄賂を贈ったりすることもある)も含めた全体の流れを”うまく回そう”としている。とはいえ、もちろん善人ではない。とにかくどんな小狡さでもいいから、その場を切り抜ける。そして相手のズルさも認める。裏切られても再度許す。苦境に立てば自分も裏切る。そうやってその場をとにかくしのいで生きる。

スポーツ選手の肩甲骨が”よくまわる”みたいな、柔軟に回転する関節のようなイメージをマチンガに対して持った。

で、この本を読んでいるとすごく肩の荷が軽くなるというか、「人間コツコツ積み重ねればいつかは」とか「あの人はとにかくブレないから良いよな」とか、「人間関係に勝るものなし」みたいな、知らず知らずのうちに背負わされているザ・価値観に縛られて疲弊するぐらいなら、すべて放り出し、場当たり的にやり、みじめさなど気にせず人にガンガンたかり、施されて当然のように気高い顔をして切り抜け、とにかく生きていく方が最高じゃないかと思える。たまたま自分にツキがまわってきたとしても、強者になることもまた放り出し、できる限り関係を固定しない。宙づり状態にしておく。

自分の場合だと、みんなにみじめなやつと思われたくない、一目置かれたい、みたいな気持ちがいつも強くあるのだが、そんなのはウジャンジャな態度ではないのだろう。引き続きセコく生きる。もらえるものはもらう。何かあげることができる時はあげる。

と、そんなことを考えながら鴨川沿いをダラダラ歩き、丸太町の誠光社をのぞき、さらに烏丸方面まで歩いて、ずっと行きたかった店・vouへ。
欲しいものたくさん売ってた。畳をはがして、むき出しの床下をのぞく展示をやっていた。

帰りは阪急電車。天六から歩く。
夕飯は鍋。昼は何も食べてないので食欲あり。



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by chi-midoro | 2017-05-13 03:45 | 脱力
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