窓の外が白けて龍山寺の屋根を見ると瓦が濡れている。
今日も雨。 今日は丸一日使って、台湾の本屋さんをめぐるというみゆきさんの取材に同行する。 午前中は、「福和橋跳蚤市場」という蚤の市に行ってみることに。 四天王寺の市みたいな、ジャンルレスに色々売っているそうだが、 雨なのでやっているかどうか自体も怪しい感じだという。 しかし、行くだけ行ってみる。 「西門駅」というところまで地下鉄で行き、そこからバスに乗る。 15分ほどしてきたバスに乗って「自強市場」というところまで。 ブレーキがものすごい強い運転手で、体が転がりそうになる。 乗り降りはICカードで済むので楽。 「自強市場」で降りて、別のバスに乗り換える。 バス停の目の前の道路を車が走っていくと大量の水がまき上がる。 なんでこんな雨かよ。ツイてない。 次に降りたバス停の近くには市場があり、マンゴージュースを飲んでみる。 150円ぐらい。旨い。 みゆきさんは野菜餅みたいなのを食べている。安くて何枚も入っている。 市場の中を原付が走り抜けていく。 雨でも原付に乗っている人が多くてみんな厚手の雨具を着ている。 その色合いがなんかかっこよく思えてきて、欲しくなる。 あと、マスクをしている人はほとんど黒いマスクで、それもかっこよく見えてくる。 10分ほど濡れながら歩いて福和公園という公園に着く。 今調べてみると、晴れていれば駅前からもう地面で色々売っていたりするみたいだが、 雨なのでそもそも人がおらず、向こうにそれらしき会場らしきテントが見えるがひっそりしている。 テントが並ぶ脇に高速道路の高架下のスペースがあり、そこは雨が当たらないので少しだけ物を売っている人がいる。 「ヘルメット4つと、ミニスピーカー1対」だけを売っているおっちゃんがいたり、本当ならこういう面白い店が無数にあるのだろうけど、今日はちょっとだけ、売り手が全部で10人もいないぐらい。 そこら辺にバサッと置いてあるアディダスのえんじ色のジャンパーがなんかかっこよくみえて、 ここで買ったこれを今度日本で着て歩いたら、この場所とつながっているような気分で歩けるかもなと思って値段を聞いてみると200元。 800円ぐらいか。うーんと思ったけど買う。おっちゃんが「シェイシェー」といってビニール袋にがさつに詰め込む。 テントの方には店がいくつか出ているがもう閉めるところのようだ。 時間はまだ12時ぐらいだが今日はもうダメだという判断なのか。 生鮮食品を売る店ばかりで、トラックの荷台で肉を裁いたりしている。 そこを抜けるともう店ですらない、ただガラクタが積んである一角に突き当たった。 そのめちゃくちゃな物の山がすごく神々しくて、写真を撮る。 山の向こうに細いけど通れる道があり、進んでいくと、その先で何か並べて売っている人が3人ほどいた。 何が何だかわからない電気部品を一杯並べている屋台もいい雰囲気だった。 とにかくこの雨ではそれらをいちいちみていく気にもなれず、今回はザッと見れただけでも満足ということにして引き返す。 結構時間を使ってしまって先を急がねばならないということでタクシーに乗って「中山堂」の方へ。 「中山堂」は、三越とか大きなデパートがあったり、普通に日本のラーメン屋があったり、ファーストフードのチェーンもあり、整った町である。路地に入れば猥雑なものもあるけど、大通りは銀座のような感じ。三越のトイレが綺麗でゆっくり用を足せるのが嬉しい。 その三越には「誠品書店」という台湾に何店舗もある大型書店が入っている。 蔦屋書店がその店を参考に店づくりをしたとか。最近では東京の日本橋に店舗ができたらしい。今度行ってみよう。 台湾に来てからずっと本屋が見たかったのになかなか見当たらず、すごく嬉しい。 台湾の路地とか台湾の美女とか台湾のハンサムとか台湾のB級メシがたくさん載ったような本があったらいくらでも欲しい!そう思っていたのだが、売られている本はほとんどが海外の本を台湾向けに翻訳したものばかり。 でもそのラインナップはすごくて、例えば都築響一の「圏外編集者」の翻訳版が売り上げトップ何位みたいになっていたり、日本の小説も色々翻訳され、読まれているようだ。あとファッション誌。日本のガールズファッション誌がたくさん売られている。 でもなんか自分はこういうのが欲しいんじゃないんだよな今は、と思い、とりあえずさっと見て、みゆきさんのZINEショップめぐりの一軒目「waiting room」へ。 あ、違う、その前に、「越南式麺」みたいに書いて、ベトナムスタイルの汁そばを出す店があって、そこで食事をした。 卓上に切ったライムがあって絞って食べるとなるほどベトナムっぽい味。旨い。 本当にどこで何食べてもうまい。 みゆきさんが頼んだ「烏龍麺」は、なんだろう、と思ったら「うどん」だ。 「うどん」の音からの「烏龍」という当て字みたいだ。 で、「waiting room」は「透明雑誌」っていう、台湾の有名なロックバンド(今は活動を休止して「VOOID」というバンドになったとか、間違いかも)のメンバーがやっていて、小さなおしゃれな店。レコードも売ってる。Tシャツも売ってる。かなり手作りなZINEも売っている。カチッとしたミニコミというよりは、コラージュ集や、ラフなマンガ集とか、そういう感じのもの。 次に行った「荒花」という書店は、さっきよりはもっとZINEに特化した店で、アート感強め。イラストブック、フォトブックなんかが多いみたいだ。坂本慎太郎のアートワーク集も売ってる。 私語禁止の店と聞いて緊張。ジャケットのイラストが可愛かった「EVERFOR」というバンドの「Nobody Island」というCDを買う。1000円ちょっと。あと、昨日会った永岡祐介さんのイラストブックもあったので、一番安いのを買う。 お腹が痛くなってもう一回三越のトイレに駆け込んだ後、今度は「PAR STORE」という店へ。ここも「透明雑誌」のリーダーの洪申豪という人の店で、地下に降りていく階段の途中で「ナンバーガールが再結成するでしょ?」と日本語が聞こえてくる。「透明雑誌」というバンド名はナンバーガールの「透明少女」から取ったもの。 今夜行く予定の「Mangasick」という店もナンバーガールの曲名だ。影響力がすごい。 その「PAR STORE」明るくておしゃれな雰囲気で、パタゴニアの古着が売ってたり、店のオリジナルらしきTシャツも可愛い。ZINEも少し置いてある。最初にいった「waiting room」と近い品揃え。それにしてもどこに行ってもチョウ・イさんの本は必ず置いてある。 古本コーナーに「姉妹」というタイトルの、80年代に出たものらしき大衆女性誌があって、カラーグラビアがすごいいい時代の写真の色で、値段を見たら1冊50元。3冊あるのを全部買おうとレジに持っていこうとしたら、そこにある本は売り物じゃなくてコレクションだったらしかった。写真だけ撮らせてもらう。 こんな台湾の古本が欲しい!と悔しくなってきて、店長の洪さんにおすすめの古本屋さんを聞いたら、「公館駅」近くの古本屋さんがいいよと教えてくれた。洪さんはすごい可愛らしい感じの気さくな人で、シカクとも今後ZINEやTシャツの取引をしましょうーと言ってくれた。楽しみ。 コレクションコーナーには日本の古い雑誌もたくさんある。洪さんいわく、90年代ぐらいは台湾ではみんな日本のカルチャーをすごく魅力的に感じていた。アニメやマンガ、音楽、とにかく日本のカルチャーがかっこよく映っていたという。でも今の若い人は日本にはあんまり興味がなくて、そのかわり韓国のカルチャーがなんでもかっこよく映っているという。印象的な話だった。 もう一軒、近くの「田園城市」という書店へ。ZINEショップとして有名で、昨日「ZINEDAY TAIWAN」に出展していた作家たちがそのまま大勢ここに来て納品していったとオーナーの人が教えてくれた。 台湾の古い飲食店の門構えの写真がいっぱい載った本、百年続く老舗ばっかり載った本、台湾の路地をいい感じのタッチで描いたイラストブックなど、自分が欲しかった感じの本がたくさんあり、物欲に火がついて一気に色々買う。日本のイラストレーターの中村隆という人のイラスト集もあってそれも買う。リュックが激重い。 せっかく「PAR STORE」でおすすめの古本屋さんを聞いたので、そこにも行ってみることに。「公館駅」のロッカーにリュックを詰め込み、身軽になる。 駅からすぐ、茉莉二手書店という店が教わった店である。広い店内に幅広い品揃え。ブックオフっぽい雰囲気もあるけど、違うのはみんな座って熱心にマンガ以外の本を読んでいるということだ。椅子もあるし、靴を脱いで上がれる座敷スペースもある。この「公館」という辺りは大学がある学生街らしく、学術書なんかもいっぱいある。しかしもちろん俺はそういうのは読めないので、なんか古雑誌でもないかと探すがそういうのはない。 写真集コーナーを見ていても台湾の自然な風景を撮ったようなものはなくて、台湾の人はただのなんでもない路地とかチープな屋台の装飾とか、夜市の猥雑な輝きとか、そういうのに興味がないかと思う。興味がないというか当たり前過ぎてわざわざ写真に撮るまでもない対象なんだろう。そういうものこそ欲しいのに。 台湾に関係ない写真ばっかりが並ぶ写真集コーナーの中で、李忠哲という人が撮ったぼんやりした裸ばかりの写真集がよくて、540元ぐらいだから、2000円以上したのだが、買う。ぼやっとした日差しの中で女に人がちょこんと窓辺に座っているみたいな。 台湾では買い物しても袋はくれないことがほとんとで、コンビニだと1元払って、その代わりかなり丈夫なビニール袋をくれる。 飲食店街をあちこちみて歩き、台大牛荘という安いレストランでルーローハンと汁そばを食べる。台湾の飲食店は大っぴらに酒を置いてないところが結構多くて、頼むと出てくることもあれば、自分で買って持ち込む式のところもある。お酒でお金を儲けようみたいな気はあまり(俺が行ったような大衆飯店では)無いようだった。この店でも、ビールありますか?と聞いて?「ああ?ビール?あるよ」って冷蔵庫にロング缶が1缶だけ入ってたのを持ってきてくれた。キリンの缶ビール。キリンビールだけど表示は中国語だ。 食べ終えて駅へ戻る途中、「胡思二手書」という古本屋を見つけ、そこにも入る。「台湾老場景」という、看板だのなんだの町の古いものが写った写真集を800円ぐらいで買う。 駅で荷物をロッカーから取り出し、電車で一駅。 最後の目的地である「Mangasick」へようやく着いたのは閉店の15分前の21時45分だった。 店主のコウさんには前に一度シカクで会ったことがある。 「Mangasick」はシカクと仲の良い店で、向こうから仕入れたり、こっちの本を買ってもらったり、 原田ちあきさんが個展を二回したり、色々と近しい。 今は古谷兎丸原画展をやっていて、少し前は本人がサイン会をしに来たらしい。 そんな感じで、日本のマンガカルチャーを積極的に打ち出しているのがこの店。 品揃えも独特で、この店にしかないものがたくさんある印象。 自分たちでもどんどん本を作っていて、今年も出版や展示の予定がたくさんすでに決まっているらしい。 お店の居心地の良さも、気合の入りようも、今回色々めぐった本屋さんの中で特にすごいように感じた。 台湾のマンガ家で、ガオ・ヤンさんという人がいて、「緑の歌」というマンガを描いているのだが、そのマンガははっぴいえんどや細野晴臣のHOSONO HOUSEが重要なイメージとして出てくるもので、シカクでも売っているのだが、そのガオ・ヤンさんがちょうど店にいた。昨日の「ZINEDAY」にも出展しているのを見かけたのだが、おそらく細野晴臣のライブを見に行くために早めに片付けをしていた。 みゆきさんが声をかけると、やはり昨日は細野晴臣のライブを見に行ったんだという。素晴らしかったそうだ。というか、そのライブの当日、日中に細野晴臣がこのMangasickに来て、ガオ・ヤンさんと会ってお話をしたんだという。ドキュメンタリーの撮影の一部で、そういう場面を撮ったらしい。ガオ・ヤンさんもMangasickのコウさんとユウさんの二人も一緒に写真を撮ってもらって、店にサインをもらったという。「うおー!ほんとだ!ここに昨日いたんだー!」となんだか、自分のことのように喜んでしまった。 チョウ・イさんの絵を印刷したペーパーと、中国の人が作ったという、大衆めしの写真がコラージュされたミニコミを買う。チミドロの「なのかな?」を売ってくれるとのことで、みゆきさんが納品してくれた。ありがたい。台湾で売っている。 Mangasickの二人がいつも仕事終わりに行くという「先行一車」というレコード屋さんに歩いていくことに。 以前みゆきさんもそこに連れていってもらい、「すごい店でした」と言っていた。 15分ぐらい歩いた路地のなんの看板もないドアを開けると、食べ終わった皿がたまった台所がいきなりあり、とにかく色んなものが雑然と積まれたカウンターみたいなところに長髪のワンさんというこの店の店主が座って酒を飲んでいて、細い道をなんとか抜けるとレコードの在庫が棚にギッシリ詰まったスペースに出る。そこもしっちゃかめっちゃかで、一応「金属」「非金属」みたいなジャンル分けはされているもののそれも合ってるのかどうかわからない状態。せっかくだから台湾のレコードが欲しいと思うけど、全然探せない。そもそも物が立ちはだかってレコードを引っ張り出せない棚も多い。 その中で、どうやらローカルなレコードが集まっている20枚ぐらいのコーナーを見つけ、そこから3枚ほど選んで買う。 棚の横にめちゃくちゃかっこいい「超級未来」と書いたレコードバッグ(20枚ぐらい入りそうな、ちゃんとクッションの入ったいいやつ)が立てかけてあって、埃をかぶっているので、「これは売り物ですか?そうじゃないですか?」とワンさんに聞いてみたら、「うーん、プレゼントフォーユー!」と言って、くれた。嬉しい。 で、コウさんがコンビニで缶ビールの6巻パックを買って振る舞ってくれて、それを飲みながら色々聞く。ユウさんによると、台湾当局は、こういう雑居ビルの一角で商売とも非商売ともいえるような感じでやっている店をすごく嫌がっているらしく、税金とかを取り立てて、どんどん潰すかあるいは当局がちゃんとした場所と考える場所に移転させようと考えているみたいで、そもそも地下にあるMangasickなんかは本当は店として認められないのだという。 もともとビルのオーナーが戦争がまた起きた時のためのシェルターとして作った地下室なんだとか。 この「先行一車」のワンさんは、友川カズキが大好きで、店の名前も友川カズキの曲名から取ったもの。友川カズキを台湾に呼んだりもしているそうだ。自分もミュージシャンで、大友良英とセッションしたライブ盤があったり、今度日本の仲間と「Dope purple」というサイケバンドを組んでそのCDが出るという。聴かせてもらったらかっこよくて、シカクにも仕入れさせてもらうことに。 ワンさんは四六時中この店で(というかこの店が家なのだ)酒を飲んでいるそうで、「高粱酒(コーリャンしゅ)」というのをグラスに注いでそのまま飲んでいる。すすめてもらってそれを飲むと体がカッと熱くなる。アルコール度数が53度もある。でも泡盛みたいな、なんか香りが良くて美味しい。 「もっと美味しいのをあげよう!」と、さらにその「高粱酒」のプレミアム版みたいなのを注いでくれたのだが、そっちは今度は58度。おちょこにもらって飲んでいるうちに体が一気に温まってくる。「自分は普段コンビニの安い焼酎を買って飲んでいる」と伝えると、「体大丈夫?」と心配された。 Mangasickのコウさんは、仕事でどれだけ大変でもこの店にきて飲んでいると気持ちがリラックスするのだそうだ。いい場所だ。ワンさんが友川カズキの歌の歌詞を日本語と中国語訳と並べて作った詩集をくれる。色々もらってばかりだ。 午前1時ぐらいに店を出てタクシーで龍山寺へ帰る。日曜の深夜だが、龍山寺の夜市の光はまだ明るい。台湾の人たちみんな夜更かしでいいな。 今日、一気にお金を使いまくってしまった。でも欲しいものがいっぱい見つかった。今度はもっとゆっくり古本屋をめぐりたい。「台南の古本屋さんは安くて最高、台南最高ですよ!」とコウさんもユウさんも言っていた。
by chi-midoro
| 2019-03-03 21:36
| 脱力
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